プロジェクト概要

プロジェクトの目的

細胞は、生体膜によって覆われ(Closed spaces)、多くの生体分子で混み合っており(Crowded places)、互いに弱く相互作用しています(Close-contact settings)。このプロジェクトでは、このような細胞内環境が個々のタンパク質や核酸など生体分子機能構造に与える影響と、生体分子が如何に細胞内環境を構築するかを理解します。従来の生物学が、タンパク質や核酸とその複合体の固有の立体構造と機能の解明を目指していたのに対して、このプロジェクトはこれまで注目されてこなかった細胞内環境の役割とその構成に焦点を与えることによって新しい生物学の構築を目指します。そのために、実験科学と計算科学を融合し、細胞内環境に存在する動的な立体構造と弱い分子間相互作用を解明します。

研究実施体制

サブ課題1:細胞内環境を構築する分子の探索と再構成

Hero(Heat-resistant obscure protein)は細胞内環境に存在する機能・構造未知のタンパク質の一つです。これは熱耐性を持つ天然変性タンパク質であり、他のタンパク質が変性したり、失活したりすることを防ぐ機能を持つことが知られています。すなわち、Hero自身が細胞内環境として重要な機能を持つことが示唆されます。我々は、リボゾーム・プロファイリング法と質量分析を組み合わせることで、哺乳類と植物におけるHeroタンパク質群やそれによって調整を受ける標的タンパク質群を網羅的に探索することができます。また、Heroタンパク質以外にも同様のコンセプトを拡張し、細胞内環境を形成する因子の特性やそれによって調節される生命現象を理解します。さらに、低温トモグラフィーを使って、細胞内分子混雑環境自身を直接可視化します。このようにして、細胞内に存在する機能・構造未知の分子群を、個体、細胞、分子までの階層を網羅しつつ、多様な技術 (バイオインフォマティクス、遺伝学、生化学、顕微鏡観察、トモグラフィー、生物物理学) を用いて理解します。

サブ課題2:細胞内環境の原子・分子レベルでの可視化

細胞内環境に存在する機能・構造未知の分子群の動的立体構造を構造生物学と計算科学を用いて解析します。それにより、細胞内分子混雑環境がタンパク質や核酸の構造と機能にどのような影響を与えるか、タンパク質などの生体分子がどのようにして細胞内環境を構築するか、という問いに答えます。膜のないオルガネラに代表される高濃度でかつ流動性の高い特殊な環境には、天然変性蛋白質や核酸などの柔らかい構造をもつ生体分子が存在しています。我々はこれらの柔らかい構造と弱い分子間相互作用を理解することを目指します。我々は、溶液NMR、In-cell NMR、クライオ電子顕微鏡法、クライオトモグラフィー、一分子計測技術などの実験手法を駆使するとともに、マルチスケール分子動力学シミュレーション、機械学習やデータ同化などの最新の計算科学手法を用います。これらを融合することで、新しい解析手法を生命科学に提案していきます。

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